自然と共に生きる米作り:秋田・大潟村「粋き活き農場(いきいきのうじょう)」

秋田県大潟村に位置する「有限会社粋き活き農場」は、「米作り日本一」を目指し、長年にわたり自然と共生する有機農法を追求してきた先駆的な農場です。広大な干拓地で、太陽のエネルギー、水、空気、土壌、微生物の働きを最大限に取り入れた独自の農法を確立しています。

粋き活き農場の歴史と哲学

粋き活き農場の歴史は、現会長である井手教義氏が1974年(昭和49年)に福岡から大潟村へ入植したことに始まります。井手会長は、化学肥料や農薬がない昭和30年代初めに農業を始め、当時「百姓の神様」と尊敬されていた松田喜一先生の教えに従って土作りに励んでいました。

夢と希望を抱いて入植した大潟村は、アメリカ式の大規模・省力型農業をモデルとし、化学肥料と農薬の多投入が一般的とされていました。しかし、数年で地力の衰えが顕著になったことから、井手会長は本来の土作りへと回帰し、米の有機栽培に取り組み始めました。

その後、山形県の兼業農家出身である加藤和史代表取締役社長が、義父である井手会長の農業に感銘を受け、「全部の圃場を有機栽培にしたらどうか」と提案。井手会長はその熱意に応え、「一緒に農業をやらないか」と誘い、加藤社長は36歳で就農を決意しました。偶然にも、井手会長も36歳で大潟村に入植していたとのことです。現在、粋き活き農場では34haの圃場のうち、15ha(150,000㎡ )で有機米を栽培しています。

確立された有機農法の八つのこだわり

約30年におよぶ有機栽培の経験から、粋き活き農場では独自の農法を確立しています。その根幹をなす「美味しいお米を作る8つのエレメント」は以下の通りです。

  1. 恵まれた農地
    • 大潟村は、かつて日本で2番目に大きな湖だった八郎湖(八郎潟)を干拓して造成された広大な土地です。
    • 大小8本の河川によって運ばれてきた土砂、有機物、魚介類の残骸が堆積してできた大変肥沃な土壌が特徴です。
    • 日本海から吹き寄せる風の通り道に位置しており、夏の暑い季節でも過ごしやすい気候が、有機栽培にとってまれに見る適地となっています。
    • 北緯40度と東経140度が交わる日本で唯一の地点でもあります。

  2. 厳選した充実度の高い種
    • 元気な苗を育てるために、充実度の高い種を選別します。
    • 粋き活き農場では、通常の塩水選(水1:塩1.13の比重)よりも濃い比重(水1:塩1.17)で選別するため、なんと半分もの種が浮いてしまうほどの厳しい基準を設けています。

  3. 充分に育てた成苗
    • 「苗半作」という言葉がある通り、稲作では苗の丈夫さが重要です。
    • 一般的な育苗箱に100~250gの種籾を蒔くのに対し、粋き活き農場ではポット育苗を採用し、約50gの種籾で1本1本の苗を大きく育てます。
    • 通常の苗の2倍ほどの丈に育った「成苗(ポット苗)」を専用の田植え機で植えます。
    • 成苗は根の活着が良く、田んぼにすぐに水を多く入れられるため、雑草の発芽を抑える効果があります。加藤社長は、育苗中に葉先が枯れた際、義父の助言で根の重要性を学んだエピソードを語っています。

  4. 疎植栽培
    • 苗と苗の間隔を十分に開ける「疎植栽培(そしょくさいばい)」を行うことで、丈夫な稲が育ちます。
    • 株間が広いため、一株一株が広く根を張り、多くの養分を吸収できます。
    • 風通しが良いため、稲の病気や害虫を防ぐ効果も期待できます。
    • 苗全体に日光が良く当たることで光合成が促進され、生育の良い健康な稲に育ちます。
    • 太く丈夫な株や茎になり、穂が大きくても倒れにくくなるため、結果として美味しいお米ができます。根を傷つけないことで、反収にして1俵ほども差が出ると感じているそうです。

※疎植栽培(そしょくさいばい)とは、お米の稲を栽培する際に、株間を広げて植えることで、単位面積あたりの栽植密度を減らす栽培方法です。

  1. 自然のまま生き物とのつながり
    • 粋き活き農場では、田植え後しばらくして、合鴨を放飼します。
    • 合鴨は、田んぼの害虫や雑草を食べてくれるため、除草作業の大きな助けとなります。圃場がつながっているため、隣の圃場との境に網をするだけで済みます。

※現在合鴨を放飼しているのは黒米の圃場です。

  1. 自家製有機肥料
    • 土作り、すなわち堆肥作りは、井手会長の知識と経験の集大成と言えます。
    • 基本は粋き活き農場で収穫した米ぬかで、これに地域の特色を生かした原料を加えます。具体的には、大潟村名産カボチャパイの製造で出る皮や種、秋田名産のハタハタ(魚)のあら(頭や内臓)などが用いられます。
    • これらの原料を堆肥、納豆菌、麹菌、乳酸菌、酵母菌で発酵させ、完熟するまで何度も切り返します。
    • 稲刈りの後には田に稲わらをまき、上から堆肥を撒いて春まで置き、稲わら堆肥とする手間ひまをかけた土作りを実践しています。

  2. 食味バツグンの自然乾燥
    • 粋き活き農場では、昔ながらの「杭かけ」という方法で稲を乾燥させる天日乾燥米を扱っています。
    • 1枚の圃場を8人で3日半かけて刈り取り杭にかけ(機械作業の数十倍の時間)、乾燥には20日から30日かかる大変な重労働です。
    • しかし、天日で乾かした米は、まさに絹のような上品で落ち着きのある白さを持ち、機械乾燥米と比べるとその輝きは一目瞭然です。味の違いも、子どもたちでさえわかるほど美味しいと評判です。労力から大量生産はできませんが、ぜひ味わってほしい一品とのことです。

  3. 安心・安全への追求
    • 化学物質に頼らず、自然の力を借りて心を込めて育てた、生命力の強い作物を安心して食べられるものとして提供しています。
    • 農場で育て、乾燥、工場から出荷場までを一貫して管理することで、お客様に安心して食してもらえるよう万全を期しています。

粋き活き農場自慢の製品

粋き活き農場は、その有機農法で育てられた高品質な米と加工品を提供しています。

  • 籾発芽玄米「芽吹き小町」
    • 玄米は栄養価が高いが炊きにくく食べにくい、白米は美味しいが栄養価が損なわれるという課題に取り組み、世界に先駆けて開発したのがこの発芽玄米です。
    • 最大の特徴は、籾から発芽させるという独自製法です。これにより、ギャバ(γ-アミノ酪酸)の含有量が従来製法の約2倍、白米と比較すると約23倍にもなります。
    • 特許申請から取得まで3年を要しましたが、製造工程すべてを自社で行っているため、安全性と美味しさに自信を持っています。玄米を丸ごと食べてほしい、食べる人の健康と地域の環境を守りたいという願いが込められた製品です。
    • メディアにも多数取り上げられており、日々の食生活に無理なくギャバを取り入れられると推奨されています。
  • あきたこまち・ササニシキ
    • 天日乾燥米と機械による低温乾燥米(それぞれ玄米と白米)の両方を扱っています。天日乾燥米は特に「絹の輝き」と表現されるほどの品質を誇ります。

  • 古代米「朝紫」(黒米)
    • アントシアニンやビタミンC、ミネラル分が豊富で好評です。ご飯を炊く際にスプーン1杯ほど加えるだけで、鮮やかな赤色のご飯になります。

おわりに

粋き活き農場の米作りは、単なる作物を育てる営みを超え、土、水、生き物、そして人の手による丁寧な作業が一体となった総合芸術そのものです。

加藤さんたちは自然の摂理に逆らわず、自然と共に稲を育てることを哲学としています。この姿勢こそが、農場の名である「粋き活き」が示すように、環境だけでなく、そこで働く人々、そしてその米を食する人々をも「いきいき」とさせる、真に持続可能な農業の姿を体現しています。

毎年が新たな挑戦であり、試行錯誤の連続であると彼らは語りますが、その揺るぎない情熱と絶え間ない努力こそが日本の食卓へ「安心」と「美味しさ」を届け続ける源となっているのです。

安易な大量生産や一般的な流通経路での販売は、品質の妥協に直結すると考え 、お米の価値と卓越した品質を守ることを最優先しています。

加藤さんは、丹精込めて作り上げたお米に対する揺るぎない誇りを抱いており、「良いお米を作っておけば、知らないうちに多くの人達が自分たちのお米を知ってくれる。自分たちには良いお米を作ることが一番。商売は後からついてきてくれる」と、その信念を語っています。

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この記事を書いた人

東京都出身。酉年生まれ。2児の父。趣味は読書と散歩と足のつぼ押し。
洗濯物をたたむのが苦手。煮豆と井上陽水が好き。